東京地方裁判所 昭和45年(刑わ)651号 判決 1973年10月23日
主文
被告人三名をそれぞれ罰金二万円に処する。
被告人三名において、右各罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は被告人三名の連帯負担とする。
理由
(本件集団示威運動に至る経緯)
被告人吹上洪、同足立則安、同小松健彦は、いずれも東京都水道局および下水道局に働く者で組織している(全水道)東京水道労働組合(以下東水労という)に属し、被告人吹上は右組合青年婦人部長、被告人足立、同小松はいずれも同副部長であつた。
右組合青年婦人部に所属する組合員らは、日本国とアメリカ合衆国と間の相互協力及び安全保障条約が自動延長される昭和四五年六月二三日を控え、右自動延長に反対の意思を一般都民に訴える目的として都内の街頭デモ行進を企画し、同月一七日ころ、被告人吹上が東京都公安委員会に対し、同被告人を主催者、現場責任者として六月二〇日午後四時から午後五時二〇分まで同都中央区銀座一丁目一番先の城辺橋際から、同区銀座四丁目二番先数寄屋橋交差点、同区銀座八丁目四番日航ホテル前、同都千代田区内幸町二丁目二番内幸町交差点、同区所在大蔵省上、同都港区虎の門交差点等を経て中央区銀座八丁目所在土橋に至る路上において「東水労青婦部反安保総決起行動」の名称のもとに集団示威運動を行うことの許可申請をしたところ、同月一八日右公安委員会は、同委員会指令一二八六号として別紙記載の条件を付してこれを許可した。被告人三名は、同月二〇日午後二時三〇分すぎころから、同都千代田区丸の内三丁目五番地東京都庁第二庁舎構内で、前記組合員のほか約三〇名の学生を含む約二〇〇名の者とともに東水労青婦部反安保総決起行動の集会を開き、数名の者の演説のあと被告人吹上がデモ隊形などの指示をし、国会や首相官邸に向けて戦闘的デモを展開しようと呼びかけた後、午後四時すぎころから五列縦隊のデモ隊形で右構内をデモ行進し、被告人三名は、右隊列の先頭に位置し、被告人小松がトランジスターメガホンで「安保紛砕」などのシュプレヒコールの音頭をとり、被告人吹上が笛を鳴らし、被告人足立が、先頭列員において横にして前に所持した竹竿を左右に引つ張るなどして、右デモ隊員の気勢をあげ、午後四時二〇分ころ右参加者とともに、右隊形のまま前記城辺橋に向かつた。
(罪となるべき事実)
被告人三名は、前記組合員・学生ら約二〇〇名とともに、同日午後四時二三分ころ、前記デモコースに向かつて城辺橋付近を出発したが、前記組合員らが、右時刻ころから同日午後四時二七分ころまでの間右城辺橋付近より前記数寄屋橋交差手前約三〇メートル付近に至る路上および同日午後四時三六分ころから同日午後四時四二分ころまでの間前記日航ホテル前付近より前記内幸町交差点付近に至る路上において、東京都公安委員会が付した前記許可条件中「だ行進をしないこと」の条件に違反して、右各区間のそれぞれ右各道路車道片側一杯にわたりだ行進をくり返したほか、右路上中央線をこえて反対側車道に進出するだ行進を行う集団示威運動をした際、被告人ら三名は、互いに意思を通じ合つてほぼ終始右集団の先頭列外に位置し、先頭列員が横にして前で所持していた竹竿をそれぞれ背面にしたり、これに正対したりしながら、各自両手又は片手で左右に右竿を引つ張るなどして右だ行進を誘導し、被告人吹上において「安保紛砕」などのいわゆるシュプレヒコールの音頭をとつたり、被告人足立において笛を吹いたり、あるいは被告人小松において右手を上に突き上げるなどしてもつて被告人三名が共同して前記許可条件に違反した集団示威運動を指導したものである。
(証拠の標目)<略>
(弁護人らの主張に対する判断)
第一弁護人および被告人らの主張
(一) 本件公訴事実に適用される昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(以下都条例という)三条一項但書三号は、道路交通法七七条一項四号、二項、三項と規制の対象が同一であり、規制の趣旨・目的も同一であるのに、これに違反した場合の罰則は、道路交通法所定の罰則より重いから、都条例三条一項但書三号、五条は、道路交通法七七条一項四号、二項、三項、一一九条一項一三号に牴触することになり、憲法九四条、地方自治法一四条一項に違背し、形式的効力を欠き無効である。そうすると本件公訴事実は可罰の根拠を欠き被告人らは無罪である。
(二) かりにそうでないとしても、基本的人権である表現の自由に対する制限が刑罰をもつてなされていることおよび前述した道路交通法との関係を考慮すれば構成要件は限定的に解すべきであつて本件公訴事実のように「だ行進をした」というだけでは不充分で一般通行車両、歩行者等に具体的な危険が発生したことを要するものと解すべきところ、本件においては、証拠上具体的危険の発生したことは認められない。したがつて本件は構成要件を充足せず、犯罪は成立しない。
(三) 被告人らの行為が、都条例三条一項但書三号、五条の構成要件を充足しているとしても、本件集団示威運動は、被告人らの職場における労働条件悪化の根源ともなつている前記日米間の安全保障条約および右職場内における六ケ月一回検針制度などを含むいわゆる財政再建合理化に反対する闘争の一環として、東水労青年婦人部に属する組合員の総意に基き決定され実行された正当な組合活動であるから、労働組合法一条二項、刑法三五条により違法性がなく犯罪は成立せず、被告人らは無罪である。
(四) 以上の弁護人らの主張がいずれも理由がないとしても、被告人らの本件行為は目的において正当であり、本件だ行進の振幅の程度、だ行進をした距離および時間はいずれも僅少で社会通念上容認される範囲内のものであり、右行進によつて生じた交通阻害状況は証拠上認められないから、可罰的違法性を欠き、被告人らは無罪である。
第二当裁判所の判断
一弁護人らの主張(一)の道路交通法と都条例との牴触の有無について。
(1) 都条例三条一項但書は、都公安委員会が、右但書各号の事項について公共の安寧を保持するうえで必要な条件を付して集団行動を許可する旨規定し、右但書三号は「交通秩序維持に関する事項」をあげている。一方道路交通法七七条一項四号、二項、三項、東京都道路交通規則(昭和三五年一二月一三日東京都公安委員会規則第九号)一四条一号(現行昭和四六年一一月三〇日同委員会規則第九号一八条一号)は、道路上において街頭行進をする場合には、その場所を管轄する警察署長の許可を要し、右所轄警察署長は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な条件を付し得る旨規定している。右街頭行進とは都条例の集団行進とおおむね形態を同一にする行為であり、交通秩序を維持するというのは道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図ることにほかならないから、都条例三条一項但書三号は、右道路交通法令と規制の対象、規制の趣旨・目的を同一にするように見える。ところが、右許可条件に違反した者の刑事罰について、都条例五条は道路交通法一一九条一項一三号に比し、重い処罰を規定している。(両者の罰則の対象となる者の異同については後述する。)そして、憲法九四条は、「法律の範囲内で条例を制定しうる」とし、地方自治法一四条一項は、「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる」と定めているので、地方自治法二条三項一号の「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること」を目的として制定された都条例は国の基本法たる法律と牴触することは許されないと解される。そこで、都条例三条一項但書三号、五条が、道路交通法七七条一項四号、二項、三項、一一九条一項一三号に牴触するか否かにつき検討する。
(2) まず都条例三条一項但書三号による集団行進および集団示威運動(以下集団行動という)規制の趣旨・目的について考えてみると、集団行動は、一般公衆に直接自らの思想・主張などを訴える効果的な方法の一つであつて、民主制社会において、集団行動の自由が憲法上表現の自由の一形態として十分に尊重され保障されなければならないことはいうまでもないところである。ところで集団行動は他の言論・出版等の表現方法と異なり、多数の人々の集合体が限られた公共の資源である道路などを移動するために、一般通行人や一般通行車両の通行の便益を害し、あるいは平穏な集団行動であつても時に僅かの刺戟により興奮激昂のあまり集合体の持つ力で地域社会の法と秩序を乱す可能性を包蔵しているため、地方住民や滞在者の安全を保持すべき責務を有する普通地方公共団体としては、集団行動の自由の確保とともにこれと対立する社会的諸利益との調整を図らねばならないこともまた当然である。都条例三条一項但書は、同項本文と対比すれば右の調整措置として、ある集団行動の実施が公共の安寧を保持するうえで直接危険を及ぼすことが明らかであると認められる場合ではないが、そのまま実施されれば、公共の安全を害する危険の発生が予想される場合、右集団行動に条件を付することによつて未然に右危険の発生を防止する措置をとつたうえ、右集団行動が所期の目的どおり実施されるよう配慮した規定であると解されるところ、右条件付与が右付与権者である都公安委員会の恣意に流れぬよう、明確な基準のもとに、条件事項を右但書各号に限定しており、三号は他の各号規定の事項とあいまつて、右調整措置としての役割をもつのであるが、さらに仔細にその調整措置の意味するところを考えてみると、東京都内の市街地区の主要な道路において、集団行動が実施された場合、著しい交通の障害を生ずることは何人も否定し得ないところである。ところで、集団行動は、参加者が多ければ多いほど要求や要請という表現内容を訴える力は大きくなる性格を有し、また多数の人々が出来得る限り多くの一般公衆に訴えるためには、一般通行人・通行車両の多い道路において行われることがより効果的である。その場合、表現の自由の憲法上に占める地位からいつて、一般通行人や通行車両は通行の不便をある程度甘受しなければならず、これがため交通の円滑がそこなわれたとしてもやむを得ないことと言うべきであろうが、現今の過密な交通状況の下では道路における交通の著しい渉滞、交通混乱は公共の安全を保持するうえで看過し得ない重大な障害であることもまた認めざるを得ない。したがつて交通頻繁な道路上で集団行動が行われる場合公共の安全に対する危険の発生が予想されると認められる場合が多く、また交通量の過密な道路上において集団行動がその所期の目的を達するためには、右集団行動に対して優先的に道路使用の便宜を現実に供与するとともに、地方一般通行人・通行車両が道路使用の不便を甘受すべき限度をも考慮し、あるいは、同一時刻、同一場所で行われる他の集団行動等との調整をはかるなどの必要があるから実情に応じて交通規制の処置もとられなければならない。集団行動が事前に公安委員会の許可を要するとされる理由の一つは、公安委員会をして、事前に集団行動の目的、参加人員、参加団体の種別、実施される日時、継続時間、その経路などを了知させ、警察当局に指示してその経路およびこれと交差する道路および車両等の迂回路となり得る道路など関係道路ならびにその周辺地区の交通状況に対応した交通対策をたてさせ、必要な措置をとらせるためである。そして右交通対策や交通規制がその効果をあげ、集団行動も優先的に道路使用の便宜が確保されるためには、右集団行動が予定された方法でその経路を通り予定された時刻に交差点などを通過し予定された時間内に終了するなどのことが必要で、集団行動に一定の条件を課し得ることは右のような理由から肯認されよう。
したがつて、都条例三条一項但書三号が「交通秩序維持に関する事項」を掲記していても、その規制の趣旨・目的は、単に「道路における危険を防止し、交通の安全と円滑をはかるため」(道路交通法第一条)だけにとどまるものでないことは明らかである。この点はまた右但書が三号のほか、一号、二号、四号ないし六号で、官公庁の事務の妨害防止や危害防止に関する事項等を条件付与の事項として規定しており、三号も右各号と同一趣旨・目的のもとに理解されなければならないことおよび本件事案においても、「交通秩序維持に関する事項」のほか別紙条件のうち二記載の条件が付されていることからも肯認し得るところである。
ところで、許可条件に違反した場合の罰則について都条例五条は、条件違反の行為の主催者、指導者又は煽動者を処罰の対象としているのに対し道路交通法一一九条一項一三号は、条件違反の行為自体を処罰の対象とし、右主催者等を対象として規定していない。しかしながら道路交通法違反の罪についても、刑法所定の共犯規定の適用があると解されるから、実行行為に直接加担していない主催者等も同法によつて処罰される場合があり、結局条件違反罪はその処罪の対象を同一にするということができる。
そこで、「一年以下の懲役若しくは禁錮又は五万円以下の罰金」という道路交通法より重い罰則を設けたことにより、都条例五条が、右道路交通法令に牴触するかの如く見えるが、牴触が問題となるのは法の趣旨・目的および規制の対象が同一である場合に限られると解すべきところ、都条例三条一項但書による規制の趣旨・目的は、道路交通法による規制の趣旨・目的より広い視野に立つ、より高度のものであることは前述のとおりであるから、都条例の条件違反罪の罰則が、道路交通法による条件違反罪の罰則よりも重くても、両者は牴触せず、したがつて都条例三条一項但書三号は地方自治法一四条一項、憲法九四条にも違背せず、形式的効力を失わないものと解するのが相当である。
このことは道路交通法に、交通秩序維持に関する事項を、条例によつて規制することを禁ずる趣旨の規定がないばかりでなく、かえつて同法七七条一項四号は集団行動のような街頭行進を規制すべきか否かを法律自体によつて定めず、地方の実情に応じて公安委員会の規制に委ねており、また道路交通法の施行規則である昭和三五年総理府令第六〇号道路交通法施行規則一〇条三項、四項が許可条件に関し条例と道路交通法が併存することを当然予想し、これが調整を図る趣旨の規定をおくことにより、同一対象の規制について条例の適用を容認しているものと解されることからも裏付けられるところである。
(3) しかしながら本件公訴事実は交通秩序維持に関する事項として「だ行進をしないこと」の許可条件に違反した者を指導したというのであつて、右の禁止条項は、道路交通法七七条一項四号、二項、三項によつても付し得ることは否定し難いところである(ただし、本件においては道路交通法七七条に基く所轄警察署長の許可には条件が付されていなかつたものと認められる)。このように同一文言による禁止事項が都条例によつても道路交通法によつても可能な場合であつて、しかも「だ行進をしないこと」というような具体的な道路の通行方法に関する事項については、両者の規制の趣旨・目的が異なると解するのは相当でなくむしろ両者の規制の趣旨・目的が重なり合う場合であると解するのが相当である(当裁判所が都条例による条件違反罪を具体的危険犯と解しない前提に立つことは後述するとおりである)。
してみると前述のように条件に違反した場合の処罰の対象となる者の範囲について異同がなく、規制の趣旨・目的も同一と解されるのに、都条例によると、道路交通法所定の法定刑を超えて処罰し得るとすることはあらためて問題とされなければならず、具体的事案に応じて道路交通法との牴触を考慮しなければならない場合であるというべきである。そして、規制の対象も規制の趣旨・目的も同一の場合に、国の法令と同じ規制を条例で行なうことが直ちに法令に牴触するということはできないが、道路交通法は条例の適用を容認しているとしても、「だ行進をしないこと」というような本件条件違反を処罰する場合に同法所定の法定刑を超えて罰則が適用されることまで容認しているものとは解されず、右の範囲で同法に牴触するものと考えるのが相当である。
したがつて本件公訴事実に対する罰則の適用は道路交通法一一九条一項一三号所定の「三月以下の懲役又は三万円以下の罰金」の範囲内に限られ、それ以外の刑で処断することは許されないと解すべきである。(刑種の異なる禁錮刑の選択も許されないと解する)。そうすると弁護人の主張は右に述べた限度で理由がある。
二弁護人らの主張(二)の被告人らの本件行為は、犯罪の特別構成要件を充足せず、犯罪は成立しないとの点について。
都条例三条一項但書各号および五条は、前述したとおり都公安委員会が、公共の安全に対する危険が発生することが予想される場合に、未然にこれを防止するため、条件を付し得る事項を類型的に掲記し、あらかじめ右事項につき条件を定めて集団行動を許可し、右条件に違反した集団行動の主催者等に刑事罰を課すことを規定したものであるから、規定の趣旨・文言からみても具体的危険犯と解することは相当でない。本件のような条件違反罪を具体的危険犯と解する見解は、道路交通法による条件違反罪との区別を明確にしようとするものと思われるが、右見解は単に集団行動が行われた局所的な現場における交通上の阻害および直接与えた人身に対する危険のみに着目するだけで、集団行動が実施された全経路および関係道路を含めての交通阻害の状況および違反行為によつてもたらされた一般公衆の社会生活上の不利益などを無視するもので妥当性を欠くうえ、その法定刑が、人身、財産に対する侵害・危殆犯を規定した刑法その他の刑罰法規の法定刑に比して著しく軽い点などを勘案すれば、当裁判所の採用し難い見解である。そうとすると、被告人らの所為は構成要件を充足していないとの弁護人の主張はその主張はその前提を欠き、採用することができない。
三弁護人らの主張(三)の本件は正当な組合活動であつて免責事由があるとの点について。
団体交渉や争議行為のように、労働者の使用者に対抗する関係ではなく、道路において直接一般公衆の利益と衝突するおそれのある本件のような集団示威運動を行う場合においては、労働組合であるが故に、憲法二一条によつて表現の自由を保障されている一般人の集団以上の免責事由が与えられると解するのは相当でなく、都条例による本件のごとき条件付与が、前記第二の一の(2)で述べた趣旨により、憲法二一条に違反しないと解される以上、たとえ労働組合の活動として本件示威運動が行われたとしても、右条件に違反した本件行為が刑法三五条により不可罰的になるとは解し難い。よつて右主張も採用することができない。
四弁護人らの主張(四)の本件は可罰的違法性を欠くとの点について。
前掲各証拠によれば、被告人ら三名を含む本件デモ参加者らは出発地点である城辺橋付近から隊伍を組み、こきざみのかけ足で、だ行進を開始し、判示認定の区間および時間において終始車道片側いつぱいにわたるだ行進を繰り返し行い、出発後間もなく車道中央線を反対側一車線に達するだ行進を繰り拡げたため、警察官らの規制を受けたが、なおこれを押し返し、ようやく、前記数寄屋橋交差点手前あたりから、右警察官のいわゆる併進規制を受けて前記日航ホテル前に至つたところ、右警察官らの規制がとかれるや、右ホテル前を右折して間もなくだ行進をはじめ、約五〇メートルにわたつて車道一ぱいのだ行進におよび、再び警察官らの規制を受けたが、右警察官らを歩道上に押し返すなどの行為に及んだことおよび被告人ら三名はいずれも東水労の組合幹部として終始本件デモ行進を指揮したことが認められ、弁護人主張のように、本件だ行進の規模が集団行動として社会通念上容認される程度であつたとは認め難く、よつて生じた交通阻害状況も所論のように軽微であつたとは言い難いので、本件各行為が可罰的違法性を欠くとの弁護人の主張も採用出来ない。
(法令の適用)
被告人三名の判示各所為は、刑法六〇条、昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団威運動に関する条例五条、三条一項但書三号に該当するが、本件事案においては、右の法定刑は、前記弁護人の主張に対する判断一の理由により懲役三月又は金三万円を超えて処断することは許されないと解すべきであるから右の制限内において所定刑中罰金刑を選択し右金額の範囲内で被告人三名を各罰金二万円に処し、右の罰金を完納することができないときは刑法一八条により金一〇〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により全部被告人三名に連帯して負担させることとする。
よつて主文のとおり判決する。
(海老原震一 植田俊策 肥留間健一)
<別紙> 条件書
一、交通秩序維持に関する事項
1 行進隊形は五列縦隊一てい団の人員はおおむね二五〇名としてい団間の距離はおおむね一てい団の長さとすること。
2 だ行進、うずまき行進、ことさらなかけ足行進、おそ足行進・停滞、坐り込みおよび先行てい団との併進、追越しまたはいわゆるフランスデモ等交通秩序をみだす行為をしないこと。
二 危害防止に関する事項
1 鉄棒、角材、石その他危険な物件を携帯しないこと。
2 兇器として使用し得るような角材、こん棒などを旗竿、プラカード等の柄に用いないこと。
3 旗竿、プラカードの柄などに危険な装置を施さないこと。